先日、経営者向けセミナーの講師として話す機会がありました。資産の承継がテーマだったのですが、本田静六さんの著書を中心にお話させて頂きました。今日の状況を見透かすかのような慧眼に驚かされます。
1. 本多静六の原則
本多静六さんの著書に「人生計画の立て方」という本があります。戦後の民法の改正で財産の相続配分が複雑怪奇となり、混乱紛争が増えたと批評します。
家族制度から個人主義に法律を改めたことにより、「兄弟全部がわれもわれもと権利を主張し、ついには各方面に幾多の相続配分問題が、血で血を洗う有様を出現してきた」と指摘し、参考のための相続分配計画の原則を示しています。
<その一>
親から相続した分は相続人(次の世代の相続人代表か?)に譲り、自分で築いた財産は家族で等分に配分する。自分と妻の分は老後生活分となるが、足りなければ相続人に補助をさせる。
<その2>
全部が自分で築いた財産ならば、1/2を相続人に譲り、1/4を自分と妻に、残りの1/4を他の子供の総数で割って分与する。
<その3>
自分の妻が後妻である場合には、生前にはっきり決めておく。
蓄財の神様だけあり、他にもガイドラインを示してくれております。
・子供と別居すべし
・男は再婚すべし
・遺言残すべし
・生涯働くべし
などなど
老癖六歌撰、老人自戒七則などもユニークですが、今の自分に当てはまることもありますので、自戒しました。
2.現代の状況
本多静六さんは慶応2年7月2日(1866年8月11日)生まれで、昭和27年(1952年)1月29日)に亡くなられています。
戦後しばらくご存命でしたので、戦後に改正された民法の与えた影響を学者目線で冷静に分析しています。
戦前の家族制度が必ずしも良いとはおもいませんが、平等原則の与えた影響は今日でも残っていると感じます。
今日の我が国では、遺言の活用は増えていますが、当然に書くものという認識には至っていません。この点、本多静六さんは、老いて遺言を書くのではなく、働き盛りの壮年者こそ必要だと説きます。
最も、相続制度はその国の価値体系を示すものですので、欧米各国でも違いがあるのです。英国、米国で遺言を書くのは当たりまえであり、書かない場合、裁判所が介入して大変なことになります。
また、英国、米国では信託の活用が進んでおり、遺言と信託はセットで活用するのが一般的です。
日本で相続が発生すると遺言がないケースも多いため、法定相続人の間で遺産分割協書を作成します。いわば相続人の自治とも言うべき状態で、まとまらないといつまでも財産が配分されません。
このとき、法定相続人が相続財産を相続する割合が民法に定められています。例えば、配偶者と子供がいる場合は、それぞれ1/2ずつというルールです。これが、均等に、平等にという相続人の意識のもとになります。
ただ、民法のなかにもう一つ大事な規定があります。それは民法906条です。
<民法906条>
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
法定相続分を定めつつ、一切の事情を考慮して決める、ということになっています。しかし、一方を増やせば他方が減るのが遺産分割ですので、調整は大変なことになりますね。
3.まとめ
経営者こそ本多静六さんのアドバイスを参考に遺言を書いておきましょう。できれば、信託を活用することで生涯現役、安心豊楽な人生が待っています。