長く続く秘訣は、変わり続けるけど、変わらないこと

「ゲームのルールが分かってないと危ないよね」とK社長。セミナーの後の雑談の一コマです。興味があれば情報を集めて対策を考えますが、関心がないことだと後回し、というのはよくあります。ましてや、自分が無意識に避けている問題だと後回しにすらならず、スルーします。

 

1.見えているルール

世の中にはさまざまなルールがあります。法律として定められているものもあれば、慣習や常識という明文化されていないルールもあります。

ある課題に遭遇したため採用した対策の結果、その時は良くても、後々で想定外の事態を引き起こすことは少なくありません。

ある芸能プロダクションの相続税対策が注目を集めています。不祥事をきっかけに経営体制の刷新する必要に迫られたが、過去の相続税対策との兼ね合いから代表権を手放すことができないとい態になったようです。

ここで問題となったのは事業承継税制の特例措置といわれるものです。以前、本コラムでもテーマとして取り上げました。近年では中小企業の経営者の高齢化と後継者不足による廃業が増加していることから、経営承継を円滑化するための法律が制定されたものです。

その法律の中の一つが事業承継税制ですが、ざっくり言えば、先代の経営者と後継者が一定の要件を満たすと相続税や贈与税が「猶予または免除」されるというものです。この「猶予」というのがポイントです。

事業承継税制の適用を受けると、先代の経営者(1代目とします)から次の世代(2代目とします)に自社株式が贈与や相続された時点では税金は「猶予」されます。つまり、「今のところは払わなくて良いよ」の状態です。

2代目から3代目に株式が贈与・相続されると、ようやく「免除」になります。つまり、「もう、払わなくて良いよ」になるのです。そこに至るまでの長い時間の間、守らないといけないルールが有ります。

そのルールとは、後継者は代表権を持っている、自社株式は譲渡できない、などの様々な要件を満たし続ける必要があります。満たさなくなった時点で、「税金を納めてください」という事態になるのです。しかも、利息付きで。

今回の芸能プロダクションの件では、「後継者が代表権を持っている」という要件があるため、代表権を返上できなかった可能性があります。影響はそれにとどまりません。

自社株式を譲渡することや、合併などの組織変更にも制限がかかるため、会社として取れる選択肢が限定されてしまいます。ただ、それがルールですのでどうにもなりません。

自社の経営環境が将来にわたって安定的で、想定した通りに進んでいけば、相続税負担に悩む企業にとって事業承継税制は救いの神様になります。しかし、守るべきルールを守れなくなった場合、受けるダメージは大きいものになります。

 

2.見えていないルール

スポーツや将棋では、ルールがあり、それを遵守して勝敗を決します。時折、「三苫の1ミリ」のような微妙なこともありますが、これとてV A R検証で線上に1.88ミリ残っていたそうですから、ルール通りです。

しかし、慣習や常識など見えないルールというのもあります。芸能プロダクションの件では、問題となる事実を会社、マスコミ、スポンサー企業が認識しながら沈黙していた「空気」があります。

この「空気」については山本七平さんをはじめ、著名な方々が論じています。太平洋戦争を始めるという空気、戦艦大和と特攻出撃させる空気など、誰が決めたかも判然としない「空気」というものがわが国にはあります。

この「空気」というものが、なぜ生まれるのか?

考え方の一つとして、家族システムの観点から説明することができます。エマニュエル・トッドの分析によれば、日本という国は「直系家族」に分類されます。この家族システムの特徴は「権威」と「権力」の分離です。

組織や集団の中に「権威者」がいる場合、権威者が意思決定をしなくても、日本人の特性として権威者の意思を「忖度」して現場の人々が走り出すことがあります。この「忖度」という言葉も一時マスコミを賑わせました。

集団の中の「空気が読めない」人は攻撃されてしまいます。日本の組織や集団に存在する「空気」は、家族システムに由来する集団的な無意識だとしたら、その空気を言語化しておかないと、流されてしまう可能性があります。

この「空気を読んで、自他共に従う」という習慣は、直系家族が生き延びていくための知恵ですので、良いも悪いもありません。コロナ禍でルールがなくても自粛するのは「空気を読んだ」からに他なりません。

「ねばならない」という見えないルールに自分自身や会社が縛り付けられないためにも、見えないルールの言語化が必要のように思います。言語化しておけば、あとは採用するか、しないかという自由が生まれます。

 

3.まとめ

同族企業(ファミリービジネス)では、会社のみならず創業者一族というファミリーにも「空気」があります。この空気というものに会社や家族が支配されそうになったとき、判断の拠り所になるのが企業理念や家訓、歴史といったもののように思います。

東浩紀さんの「訂正可能性の哲学 」に長く続く企業やブランドは、絶えず自分たちの定義を更新していくという趣旨の文章がありました。

変わり続けるけど、変わらないのというのが、共同体が長く続くための秘訣なのだと思います。