30年前の世界一の大富豪から学ぶべきこと

「ちょっと名義貸して」「いいですよ」と応じてしまって、後で面倒なことになってしまうことも…。

ところで、30年前の世界一の日本人の大富豪は誰でしょう?

30年前の1993年に「Forbes(フォーブス:米国の経済誌)」でビル・ゲイツを抑えて世界一の大富豪と報道されたのが、西武鉄道グループのオーナー堤義明氏。続く1994年も世界一となりましたが、当時のベスト10には日本人の土地所有者が名を連ねていた時代でした。

スポーツ(プロ野球、アイスホッケー、オリンピックなど)、宿泊(プリンスホテル)、観光などを組み合わせたビジネスの発想は今も色褪せません。

しかし、優れた経営者が陥ったのは同族企業(ファミリービジネス)であるが故の落とし穴でした。

西武鉄道が嵌ってしまった落とし穴としあげられるのは次のような点です。
 
・ワンマン経営の長期化による弊害
・コンプライアンス観念の欠如
・ファミリー優先の体質

世界一の大富豪と謳われてから12年後の2005年、堤義明氏の証券取引法違反(有価証券報告書偽造)容疑で暗転します。ここで問題となったのが名義株式の問題でした。有価証券報告書偽造というとカルロス・ゴーン氏やライブドア事件を思い起こします。

 

さて、問題となったのは堤家の持ち株会社であるコクドが保有する西武鉄道の株式です。

当時、上場会社であった西武鉄道の有価証券報告書にコクドが所有する同社株式の割合を約43%と記載していました。しかし、実際に国土が保有する割合は約64%。

これは何を意味するでしょうか?

西武鉄道の株式の約64%を保有していました。にもかかわらず、第三者の名義を借りて約43%に引き下げた理由は、西武鉄道の株式を上場株式として維持したかったためです。

つまり、保有割合が多い株主の上位10人が80%を超えてしまうと上場廃止基準に抵触してしまうのです。

上場廃止を避けるためにも、コクドの保有割合を引き下げる必要があったということです。

それ以外にも理由は考えられます。会社の幹部などの他人の名義で株式を持ったことにしてしまえば、一時的には、相続によって株式が分散していくことと、相続税の納税負担を軽減することが可能です。ただ、こうような偽装は後々で災いを呼ぶことになります。

堤家でも名義株式問題が発覚した後、コクド株について義昭氏と他の兄弟間で裁判になりました。先代の相続財産の承継を巡っての戦いとなりました。

先代の相続により義昭氏が相続した財産を義昭氏は管理しているだけで、実際は他の兄弟が相続している、と主張したのです。裁判の結果、コクド株の一部について兄弟の主張を認めました。

ちなみに、堤義明氏はインサイダー取引も問題となります。結果的に、先代の堤康次郎氏が築き上げた帝国が、堤家のものから銀行の管理下へと移ることになりました。

他人事と思われがちな名義株式問題ですが、今でも業歴の古い会社では見かけることがあります。

名義上は昔の役員になっているだけとか、会社設立の時に名前を借りた、とかですね。後々問題になることもありますので、注意が必要です。

名義株式以外にも、名義預金というのもあります。子供名義の預金でも、親が資金を出してそのまま管理している場合などです。

昭和の時代と違って、今の時代は銀行口座の作成も本人確認がありますし、銀行側のチェックも厳格になりました。

名義預金については税務署のチェックも厳しいですね。相続税の申告で最も指摘が多いのは預貯金の計上漏れです。単純な記載漏れのケースだけでなく、過去の預金の動きを見て名義預金とされることもあります。名義預金だけでなく、名義保険というのもあったりします。

一方で、上手に名義を借りて堂々と利用する方法も世の中にはあります。

確認することは簡単です。会社四季報の株主欄をご覧ください。「●●信託銀行」「▲▲銀行信託口」「有価証券管理信託■■」などの名義で株主として記載されています。

つまり、本当の株主は別にいるのだけれど、上場株式を管理しているのは信託銀行というケースですね。信託を使う理由は様々ですが、上場会社の創業家一族が利用するケースも少なくありません。

今の時代、会社の大小を問わず、自分の万が一に備えて信託をしておくというニーズが増えています。家族信託という形で利用される財産でも土地や金銭だけでなく、自社の株式という例も増えています。

自分に何かあった時のために、信頼できる人に財産を託しておきたいというニーズは昔からありました。例えば、十字軍として戦地に向かう騎士が自分の領土の管理を家族のためにまかしておきたいという場合です。

騎士として戦場に行く以上、死亡することもあれば、負傷して自分で管理することが難しくなることも想定されます。であれば、自分名義の財産を管理してくれる人の名義に変えておいて、自分に何があっても良いように備えておく仕組みを作ったことが、信託の原型となりました。

「名義は他人になっているけど、本当は自分のもの」というのが信託の世界です。このあたりは説明としては難しく、理解し難いことかもしれません。ただ、上場会社の四季報欄に見るように当然のように社会のインフラの一部として存在しているのも事実です。

知らなかったが故に活用できないのは勿体ないですね。

本日のまとめは、「名義モノ(株式、預金、保険)には要注意」でした。
名義を借りるときは信託を使って、正々堂々といきましょう。