先日、都内にある法人のB代表と打ち合わせをした時のことです。同席した知人の生命保険の営業マン(男性でした)が「節税保険だけで売ってきた人は辛いでしょうね。」とポツリ。
その後、保険の話にとどまらず、経営者の資産防衛の話で盛り上がりました。
1.節税でなく資産管理
2019年に法人が契約者となる保険の税務処理について見直しがありました。同席した保険の担当者は、節税だけを目的とする生命保険の営業を殆どしなかったというのです。どういう営業をしてきたのでしょうか?
簡単に言いますと、生命保険を資産として管理していくというスタンスです。法人の経営方針と個人のライフプランを丁寧にヒアリングして、オーダーメイドに保険+αの提案をするスタイルです。
当たり前、と言われれば当たり前ですが、結構できていないものです。この保険の担当者は自分が契約した保険の金額だけでなく、すでに保険金として支払った金額を把握していました。
B代表が契約した保険を個人名義、法人名義を問わず、保険の一つずつ確認していていきます。契約者、被保険者、保険金受取人、保障内容などをチェックします。やはり、保障内容の重複などなど、メンテナンス不足の感が否めません。
保険は出口戦略次第で結果が変わってくるものですから、契約した保険も資産として適切に管理していくことが大切です。とりわけ、「節税保険」を契約している場合は、要注意ですね。
さらに、生命保険の話にとどまらず、企業のリスク管理の話となり、財産をどう守るかという話に展開しました。
2.保険による資産防衛
資産防衛という言葉を目にする機会が増えています。「インフレから資産を守る」、「余計な税金を払わないようにする」などを意味することが多いようです。本コラムでは、リスクに備えること、とします。
保険はリスク(悪い事象が起こる可能性)に備える仕組みです。万が一に備えることが保険の本旨ですから、資産防衛のために欠かせません。資産といえば、個人資産だけでなく、法人そのものも資産です。
B代表の抱えているリスクのうち、影響が大きいものの一つは、B代表自身に良くないことが生じた時です。事故、怪我、病気、認知症など、判断能力に影響を与えることと、相続の発生などですね。
B代表にリスクが生じた場合、保険により法人や家族に与えるダメージを小さくすることができます。色々と未来を展望していくときに、相続と相続税の問題は必ず出てくる課題です。
特に、事業承継では保険の活用次第で、大きな影響を与えます。保険が威力を発揮するのは、民法の世界(一般の世界)を離れて、保険独自の世界(特殊な世界)でお金を管理することができることです。
これも当たり前のことなのですが、認識して保険に加入している人は少ないのが現実ではないでしょうか。保険の使い方次第で、揉める原因にもなりうるし、揉めないための対策にもなるのです。
3.資産防衛に必要なことは
世の中で恐ろしいものは、「地震、雷、火事、親父」と言われます。会社経営において最大のリスクはオーナー経営者の身に何か良くないことが生じた時です。会社経営のみならず、家族にとっても大変なことです。
天災は忘れた頃にやって来るので、企業は災害などの緊急事態に備えた事業継続計画(BCP)が必要といわれます。同様に、事業をしている家族には、家族継続計画があったほうが良いのではでしょうか?
近年では、会社経営でも知的資産(人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるもの)という決算書に出てこない資産が注目されていますね。
家族でも相続財産としては認識されないオーナー経営者だけが認識している知的資産があるはずです。この資産は保険では保障できません。オーナー経営者だけが分かる資産を明確にして、後継者に引き継ぐ必要があるのではないでしょうか。
資産には見えるものと見えないものがあります。また、資産にはお金に換算できるものと、換算できない物があります。様々な資産やリスクがある中で、保険という手段で対応できるもの、対応すべきものは一部でしかありません。
年齢を問わず、事故や病気などで法人オーナーが経営権をもったまま、判断能力が低下した場合、誰が何を補うのか決めておかないと混乱します。事業承継は、事業継続計画の一部であり、家族継続計画の一部となります。
法人オーナーの経営権とは、株式会社であれば株主総会において、代表者や役員を決めることであり、決算の承認することであり、役員報酬決めることなどです。いざという時のために自社株式の信託を活用することも増えてきました。
B代表の資産防衛については、保険、信託、生前贈与、法人への資産の譲渡、遺言など様々な対策がありうることが認識できました。後は、気持ちの整理、納得感と優先順位の確認を時間かけて進めていくだけです。
【まとめ】
資産防衛に必要なのは、個人資産の管理だけでは足りません。会社経営と家族への承継に配慮する必要があります。
ファミリービジネスにおける資産防衛とは、会社と家族をパラレルにプランニングしていくことです。
資産を守るためには、保険や信託をするなどの手段の前に、どのような資産を、何のため、誰のために、どうするか、を意識して対策を持つことが必要ではないでしょうか。
そのときに必要なのは、公平、中立的な第三者だと思います。