変革期に必要な資産承継戦略

「見直しをする良いタイミングだね」とF社長と顧問税理士さんの会話です。税制も変わるので、色々とプラン変更が必要となりました。人生100年時代のお金の戦略を見つめ直す良い機会が来ています。

 

1.税制改正のメッセージ

今年の税制改正の目玉の一つは贈与税の改正でした。銀行の提案した節税策を認めなかった令和4年4月19日の最高裁判決や、今後の判決財産評価方法の見直しなどを考えると、相続税の節税ブームの転換点だと感じます。

安心、安全は普遍の欲求ですが、当たり前の状況が続くと有り難みを感じません。1年間に110万円まで贈与税がかからないから親から子、孫に贈与をする、というのも当たり前になると有り難みがなくなります。

信託銀行にいた時に教育贈与信託が始まり、一大ブームになりました。一度に大きな金額を贈できるのは魅力でした。確かに、贈与した時は感謝されますが、その後は…という事もあるものです。

さらに、贈与した人に相続が発生した後の事も気をつけておく必要があります。子供が二人いて、一人には教育贈与があったのに、もう一人には何もないとなれば、不穏な空気が流れるのもやむを得ません。

これからは、今まで以上に贈与をするなら、じっくりと考えてからが大切です。今年の税制改正で、歴年贈与は相続前7年間の贈与した財産を、相続財産に加算されることになりました。以前は3年分でしたので、4年間伸びました。

日本人男性の平均寿命は約81歳、健康寿命は約72歳ですので、約9年になります。健康寿命になったから贈与できないわけではありませんが、81歳の7年前の74歳までに贈与を終えるのが一つの目安になりますね。

75代半ばまでに資産の移転の目処をつけるとしたら、60代から対策を講じる必要があります。この資産承継戦略も今年の税制改正の趣旨から考えると、次の世代以降も視野に入れて考える必要があります。

 

2.税金以外でも色々と変わる

税金以外でも、資産承継に微妙に影響を与えそうな制度が2つあります。令和5年4月開始の相続土地国庫帰属制度と、令和6年4月開始の相続登記の申請義務化です。

相続土地国庫帰属制度は相続などで土地を取得した場合に、その土地が不要であれば国に渡してしまう制度です。土壌汚染や埋設物などがある場合や、担保権等が設定されている場合などはダメですが、基準を満たして負担金を支払うと国が引き取ってくれます。

相続税の申告をしていますと亡くなった方(被相続人)が、地方の別荘地や原野に土地を保有していることがあります。別荘地として開発された土地などは、相続人も不要だし、買い手もいないのに、相続税評価額が数百万円になることもあります。

価値もないのに相続税をかけられるとなると、財産を受けとった相続人は手間と費用をかけて不動産の名義の書き替えをする気になりません。相続の登記をしない結果、所有者不明の土地が発生します。

この所有者不明にしないために、相続登記の申請義務化が必要になります。一方で、不要な土地でも国が引き取る仕組みがありますから、使わない手はありません。できれば、不要な土地は処分するのが鉄則です。

誰に、何を、どのように渡していくか、事前準備が本格的に必要になった、というのが率直な感想です。もはや、税金の問題だけでなく、法律や経済情勢など、資産運用、資産管理、資産承継をするトータルプランニングの時代になりました。

 

3.ファミリービジネスの観点

同族企業(ファミリービジネス)のオーナー社長には自社株式をどうするか、という最大のテーマが待ち受けています。会社や事業を承継する、売却する、清算するのも社長の決断ひとつです。

オーナー社長の相談相手は会社や所得の数字を掴んでいる顧問税理士が良いのはいうまでもありません。とはいっても、相性の問題もありますし、相談の範囲も多岐にわたる可能性があります。

同族企業(ファミリービジネス)の承継の難しさは、経営の承継と資産の承継の両面があることです。さらに、この2つの承継をビジネス面、ファミリー面の両面で考える必要があります。

そうなりますと、オーナー社長に必要なアドバイスは総合的、俯瞰的アドバイスになります。医療の世界と同様に、主治医が全体をコントロールして、専門医や専門職が手術、投薬、リハビリなどをサポートする仕組みです。

オーナー社長の主治医は顧問税理士などが担い、解決すべき課題に対応する専門職である士業・コンサルタントの組み合わせで知恵を出し合うのが良いでしょう。もっとも、主治医は顧問税理士がマストではなく、相性の良い人がベストです。

資産承継は人生最後のプレゼントになります。オーナー社長にとって大切なものも、受け取る側の目線で見るとどう映るか?という観点も考えることも大切です。

社長にとって特別なモノや大切なモノも、配偶者や子供には響かないモノになる、という事は結構な確率であるのです。社長が丹精こめて育てた盆栽より、奥様にしてみれば現金の方が有難い、などはあり得ると思いませんか?

F社長のこだわりのご自宅も、奥様は手入れが大変といっていますし、子供たちは自分の家を持っています。さてさて、この先どうしたものかと、思案中です。

 

【まとめ】

変革期には戦略の見直しが欠かせません。特に、資産承継の世界は戦略の前提そのものが変わっています。

内村鑑三は『後世への最大遺物』の中で、お金、事業、思想、生き方の4つを例示しています。この4つ全てを後世に残し得るのはオーナー経営者だけです。

後世への贈り物をするために資産運用、管理、承継の戦略を考えてみませんか?