「隠れたチャンピオン」でなく、不易流行
「グローバル化しなくても何とか生き残っているよ。ま、できなかったのが本音だけど。」と工作機械製造業のG社長。3月の決算を無事締めて、締めてホッと一息です。
1.隠れたチャンピオン
G社長は都内で製造業を営む3代目で、学生時代からの長い付き合いです。若い時に海外進出を目指しますが、紆余曲折をへて国内回帰しました。そのような話を聞いた後で、「隠れたチャンピオン」の記事を目にしました。
関東経済産業局の記事の趣旨は、日本の中小企業も大手企業の下請けの立場としてのポジションだけでなく、ドイツの「隠れたチャンピオン」のように世界市場でグローバルに稼ぐ企業を目指そうということでした。
そもそも隠れたチャンピオンとは、ハーマン・サイモンが著書(「グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業」)で命名したもので、グローバル化に成功したドイツの中堅・中小企業のことをいいます。
定義としては次のとおりです。
1) 世界市場で3位以内に入るか、各大陸市場で 1 位。
2) 売上高が50億ドル以下
3) 世間からの注目度が低い
隠れたチャンピオンの成功要因(※)は、以下の点にあるそうです。
制度政策要因:経済振興公社、商工会議所等の産業インフラ
社会構造・経済構造要因:系列が存在しない、大学が留学生無償等
人的能力要因(先的要因):完璧を求めない、オープンなマインドセット等
人的能力要因(後天的要因):英語教育等
参考になるような気もしますが、どうでしょうか。系列も悪いことばかりではありませんし、自ら海外進出するのもリスクがあります。日本には総合商社という存在があります。G社長も総合商社ルートを大切にしています。
実は、サイモンの取り上げた「隠れたチャンピオン」の7〜8割は、従業員が数千人規模の会社であり、そもそも中小企業ではない企業が多いとの調査があります。結局のところ、日本もドイツも長期雇用、長期の取引関係の重視など、成功の要因は変わらないのでしょう。
2.長寿企業と家族形態
日本とドイツには共通点があります。それは長寿企業が多いことです。日経B Pコンサルティング周年事業ラボ(2019年)によれば、100年以上の企業では日本1位、ドイツ4位。200年以上では日本1位、ドイツ3位です。
家族形態も似ています。エマニュエル・トッドによれば、ドイツは日本と同じ直系家族の類型に分類されます。直系家族とは親と子の関係性が強く(同居)、兄弟関係は長子が優遇される家族形態です。
この直系家族が重視する価値観は「世代間承継」「技術資本の蓄積」「社会的規律」です。長男が事業を承継していく家族システムになっています。1。長男以外の子供が、家から出て独立することも労働力が確保できる要因になりました。
しかし、核家族化がすすむ日本が「直系家族」なのか?と疑問を持ちます。歴史家の磯田道史さんは、トッドとの対談で、相続と恋愛は万葉集時代、親と結婚は直系家族の価値観と興味深い指摘をしています。
日本とドイツは直系家族でも少し異なるところがあります。それは、「イトコ婚(イトコ同士の結婚)」の存在です。日本では「イトコ婚」がO Kですが、ドイツではありません。このことは日本の組織の内向性、ドイツ人の外向性を示しているようです。
直系家族という家族システムであったからこそ、日本とドイツは長寿企業を育てることができたと言えそうです。ただ、大陸の一部であるドイツは外向性が強いのに対して、島国の日本は内向き体質なのかもしれません。
ただし、顕著に違うことがあります。几帳面なドイツ人は事業承継計画と立てる傾向があるのに対し、日本人は計画を作るオーナー社長の割合が少ないという点です。
【まとめ】
ドイツの隠れたチャンピオンの大多数は中小企業というより、大企業といった方が相応しい様です。成功要因も際立った要素があるわけではなく、環境変化に対応したかどうかにかかっています。
月並みな結論ですが、ファミリービジネスが存続する秘訣は「不易流行」にあります。守るべきものは守り、変えるべきは変えるということです。
ただ、変わっているのはビジネス環境だけでなく、ファミリー環境も変わります。家族形態という社会的なものだけでなく、家族の構成員の加齢による関係性の変化もあります。
変わりゆくものの中で、不易流行を意識していますか?
(※)
「ドイツの「隠れたチャンピオン(Hidden Champion)」は なぜグローバル化に成功したか(岩本晃一:産業経済研究所)」